2.方法論とはどのようなものか
方法論とはどのようなものを言うのかは、なかなか具体的に説明するのが難しいことです。
そこでここではそれを直接解説するのではなく、「方法論」的な内容を説いている図書をご紹介することで間接的に方法論の具体像を描いていただくこととしました。


方法論系図書の教えるところ
最近は「どうすれば××はうまくいくか」的な図書が、ビジネス系出版の売れ筋に名を連ねている。激変の時代であり、過去の延長の知識だけでは勝ち抜けないという認識がこの背景にあるのであろう。

そこで本項では、そのようなベストセラーのご紹介を兼ねて、このような図書が方法論という観点ではどのような内容を持っているのかを、独断と偏見によって整理してみることにしたい。もとより原著は1冊の著作であり、その主張は幅も奥行きも大きなものがあるので、ここではその一部のみしか取り上げていないことをご了解いただきたい。


著書名
なぜか、仕事がうまく行く人の習慣
著者
ケリー・グリーソン
方法論の対象
主にビジネス業務全般
出版社
PHP研究所
代表的な原理
すぐにやる!すぐに整理する 機械的に行う作業を決める
ガイドの内容
これは時間がかかるから後でやろうとか、優先順位を決めてからやろうと、理屈をつけて先延ばしをしてはいけない。後からやる時間などできないのだ。考える仕事と機械的に処理する仕事を自分で基準を作って分けなさい、考える仕事の時間が増える、と説く。整理の具体的方法を着信メールの整理法まで含めて提示している。
(上野注) 仕事ができる優秀な社長をみていると、まさに「すぐにやる」を徹底している。まず手を打ってみるのだ。駄目だったら次の手を考える。駄目かもしれないから、とあれこれ考えるのは凡人である。

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著書名
誰でもできるけれど、
ごくわずかな人しか実行していない成功の法則
著者
ジム・ドノヴァン
方法論の対象
人生におけるさまざまな目標達成
出版社
ディスカヴァー21
代表的な原理
ゴールを具体的に描く。ゴールは必ず達成できると信ずる。ゴールを目指して真剣に取り組む。ネガティブな態度をやめる。逃げ道を残さない。など。
ガイドの内容
私たちのほとんどが、何をするべきかを知っている。問題はそれを本当に実行しているかどうかということだ。本当に何かを達成したいのなら、そのことを真剣に考えるべきだ。そしてそのゴールを心に描き、着実に前進する。これができるかどうかが成功するかどうかの分かれ道である。
(上野注) ゴールを具体的に描くことは、ゴールに到達したときのすばらしい状況を思い描くことである。それが、ゴールが実現する第一歩であると言っている。その点は、当方法論が言うところの価値目標の具体化と一脈相通ずるところである。

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著書名
仕事ができる人できない人
著者
堀場雅夫
方法論の対象
いわゆる会社の仕事全般
出版社
三笠書房
代表的な原理
「結論を出すのが早い人」「その場ですぐ決断する人」はよい。「じっくり考える人」は駄目。「可能性が低いことに挑戦する人」「大勢に逆らってでも自分を通す人」はよい。しかし「一度決めたことは最後までやろうとする人」はこれからの世の中では駄目。「人の言うことをすぐ否定する人」「全員で結論を決めようとする人」も駄目。「質と早さの優先順位は状況による」などなど。
ガイドの内容
著者の経験からの考えを、こんな性格の人、この能力のある人、この努力をする人、こんな習慣がある人、こんな発言がある人、こんな態度の人、こんな物の見方をする人、こんな価値観の人、の8分類107項目にわたって開陳している。ビジネス生活で出くわすほとんどすべての状況が出てくると言ってもよいくらいである。なお、著者の解説の一例を挙げると、前掲の「結論を出すのが早い人」「その場ですぐ決断する人」はよい、「じっくり考える人」は駄目、の場合、早く結論を出すことができるのは、事前にいろいろな状況をシミュレートしているからだ、と述べておられる。
(上野注) 「大勢に逆らってでも自分を通す人」の中で、著者はこう言っておられる。「(現在の堀場の基礎を築いた赤外線方式の分析法の開発に乗り出すときのことであるが)当時ガス分析法はいろいろな方法があった。それぞれ長所も短所もあり、決断の基準値でいえば50対50である。すべての方式を試してみるのがベストだが、膨大な開発費がかかるので不可能だ。(中略)最後の決断は経営責任者たる私が下した。(中略)ここ一番の決断は信念でするもので、大勢の流れは関係ない」 この意思決定に対する考え方は、まさに我々の言う「意思決定の本質」の考え方そのものである(「1.3.1(3)意思決定の本質」参照)。

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著書名
考える力やり抜く力私の方法
著者
中村修二
方法論の対象
研究開発を中心に仕事全般に応用可能な面もある。
出版社
三笠書房
代表的な原理
「器用でなくていい、自分の流儀を持て」「想像力のないところに、知恵も愉染みもない!」「横並びのやり方・生き方に安住するな」「野心があるから、人はここまで大きくなれる!」「このこだわりがある限り、夢は実現する!」など
ガイドの内容
青色発行ダイオードを発明した著者の体験談であり、方法論の解説書ではない。しかし、従来の延長では生きられないこれからのビジネスないし個人、ひいては日本の生きる道を探ったガイドブックとみることもできる。前掲堀場雅夫氏の主張とも共通点があるのは偶然ではなかろう。
(上野注) 自分の信念をいかに守り通すかの成功談であり、なかなか真似のできないところも多いが、孤軍奮闘の極限を示すものとして、同じような環境にある者に対して勇気と力を与えてくれるものである。日本が早くこのような逸材を大事にする風土に変わらなければならないが、長年の思考風土に根差したものであり、一朝一夕には成りがたいであろう。過去の延長で考えずに、「価値目標型目的思考」をしていくことによって長年の思考風土からの脱却が少しでも進んでくれたら、と思う。

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著書名
チーズはどこへ消えた?
著者
スペンサー・ジョンソン
方法論の対象
人間関係、恋愛、結婚、仕事、友人、家族…
出版社
扶桑社
代表的な原理
(チーズは人生で求めるもの、大事なものである)「自分のチーズが大事であればあるほど、それにしがみつきたがる」「変わらなければ破滅することになる」「常にチーズの匂いをかいでみること、そうすれば古くなったのに気がつく」「新しい方向に進めば新しいチーズが見つかる」「まだ新しいチーズが見つかっていなくても、そのチーズを楽しんでいる自分を想像すればそれが実現する」「古いチーズに早く見切りをつければ、それだけ早く新しいチーズが見つかる」「従来どおりの考え方をしていては、新しいチーズは見つからない」「早い時期に小さな変化に気づけば、やがて訪れる大きな変化にうまく適応できる」など
ガイドの内容
この著書はわずか100ページ弱のものである。その中でこれだけの人生訓を説いている。それは、タイプの異なる二人とねずみの2匹がチーズを探すというたとえ話的なストーリ展開によって可能としている。
(上野注) 理屈の解説によってではなく、物語上の事実の展開で読者に考えさせている構成は見事である。「まだ新しいチーズが見つかっていなくても、そのチーズを楽しんでいる自分を想像すればそれが実現する」の内容は、「まず価値目標を明らかにしよう、そしてその実現を目指そう」という我々のアプローチと同じである。

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著書名
七つの習慣
著者
スティーブン・R・コヴィー
方法論の対象
会社、家庭、個人、人生のすべて
出版社
キング・ベアー出版
代表的な原理
七つの習慣とは以下を指す。「主体性を発揮する」「目的を持って始める」「重要事項を優先する」「WinWinを考える」「理解してから理解される」「相乗効果を発揮する」「刃を研ぐ」
ガイドの内容
著者は、七つの習慣の本論に入る前に、次のような本質論を述べている。アメリカで出版された成功に関する文献を調査したところ、この50年間は、成功するためのイメージの作り方、テクニック、あるいは応急処置的な手法を解説しているだけだ(これを著者は「個性主義」と名づけた)。その前の150年間は「人格主義」で内面的な誠意、謙虚、誠実、勇気、正義、忍耐、勤勉、節制、などを重視していた、という。この著書も後者のアプローチをとっており、それを「インサイドアウト」アプローチと称している。また、習慣には、知識(何をするか、なぜするか)、スキル(どうやってするか)、やる気(実行したい気持ち)が必要である。本書では、それぞれについてこうすればよいという処方箋を示している。
(上野注) 習慣を変えるのは容易ではない。この著者も言うように、知識、スキル、やる気の三つもそろわなければならない。それぞれ難物である。当方法論は、システム企画や問題解決の「知識」と「スキル」を与え、研修では「やる気」も引き出させていただいているはずである。それでも習慣化できる人はごくわずかである。コビィーが別の著書で言っているように、「行動を変えさせることはできるが、思考を変えさせることは至難である」のである。その解決策は、これもコビィーの言であるが、「行動の積み重ねで思考を変えさせるのが早道である」である。結果がうまくいけば、次もそうしようとするだろう。それを繰り返すうちに思考法(習慣)が変わるのである。会社であれば、残念ながら「ルール化・強制」が早道ということになる。個人の場合はだれが強制するのであろうか?

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著書名
金持ち父さん、貧乏父さん
著者
ロバート・キヨサキ
シャロン・レクター
方法論の対象
人生の選択、財産形成
出版社
筑摩書房
代表的な原理
人生の選択
ガイドの内容
貧乏父さんは、よい大学を出てよい会社に入り、真面目に仕事をしている。それなりの生活をしているが、決して金持ちではない。金持ち父さんは、ハイスクールさえ卒業せずに、早い時期から自分のビジネスを始めた。二人は次第に差がついて、一方は死ぬまでお金に苦労をし、一方はハワイで最も裕福な一人になった。自分の将来を誰が決めるかの違いである。有名大学を目指し、そこを卒業して「良い就職」をする、そういう刷り込み型の価値観に警鐘を鳴らしている。どうすればお金が増やせるかのガイドもしている。
(上野注) 貧乏父さんの行動パターンを好ましいモデルとして一般社会人が認めているのは、社会がそのような「指示に従って動く人間」を必要としているからである。すべての優秀な人が金持ち父さんの行動をとったら社会が成り立たない、という見解は、説得力があり、未来に可能性のある読者に金持ち父さんの行動を選択させる強い誘因となり得るであろう。周囲の考えに流されずに自分の頭で何が有効かを考えなさい!という考え方は、我々の価値目標型思考法に通ずるものがある。つまり、貧乏父さん型で周囲の評価を気にするのは、現状が思考の起点であり、金持ち父さん型の価値目標型思考法は、まさに目標が思考の起点である。金持ち父さんは、早くに自立して資産形成し大金持ちになっている。その金持ち 父さんのHowtoが手ほどきされている。六つの教え(自分のビジネスを持つ。お金のためでなく学ぶために働く。など)、五つの障害(忙しいことを理由に怠ける。無知を隠すために傲慢になる。など)、スタートを切るための10のステップ(強い目標意識を持つ。など)を「ファイナンシャル・インテリジェンス」と称して開陳されている。

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著書名
「鈍」な会社を「俊敏」企業に蘇らせる!
著者
ルビンシュタイン、
ファーステンバーグ
方法論の対象
経営、企業行動
出版社
日本経済新聞社
代表的な原理
生命体に習え、カオスの縁で経営する、誤りを戦略として活用する、不確実性を受け入れる、想像力を広げる、未来を現在に呼び込む、など
ガイドの内容
企業の組織も、生命体の組織のように、自己保存・成長能力を持てばよいということが原点になっている。また、この不確実性の高い環境では、カオスの縁で変化を受け止め、感じる状況を作り出し活用することが有効である、詳細な長期計画を立てる意味はない(それにこだわってしまうから)など、分かりやすい主張である。また、実践的な資産形成術も大いに参考になりそうである。著者は、生命体のように自己保存・成長本能を持った組織をマインド志向組織と称している。そこでは、誤りを繰り返さないようにするし(そのような情報共有化が行われる)、経験から学んでいく。マインドは生きようというまともな意思・心ということのようである。当方法論のマインドは、前掲コビィーのいう「やる気」に近い概念であるが、この著者の言うマインドでも通じるかもしれない。その場合は、仕事や人生をまともに成功させようという意思・心ということになる。

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著書名
1分間マネジャー
著者
ブランチャード、ジョンソン
方法論の対象
マネジメント
出版社
ダイヤモンド社
代表的な原理
1分間で目標を設定できること。1分間でほめたたえること。1分間でしかること。
ガイドの内容
たとえば、1分間目標設定はこうする、と記述されている。1.自分の目標について同意(納得)し、承知する。2.良い行動とはどういうものかを知る。3.目標は一つずつ、250字以内で1枚の紙に書く。4.各々の目標を何回でも読み直す。だが読み直すのに、どの目標も読むのに1分とかからない。5.1日のうちで、時々、1分間を使って自分の目標達成具合を調べる。6.自分の行動が目標と合致しているかどうかを調べてみる。
(上野注) 「チーズはどこへ消えた?」の著者の共著である。寓話風の記述法は「チーズ」と同じである。どうすればそうできるかを記述してあり、方法論書の典型である。上掲の後半の内容は、現在多くの企業で行われている目標管理の弱点を見事についている、と言えよう。 部下のマネジメントという広いテーマに対し論点を絞り、分かりやすく寓話風にまとめあげたこの著書のできばえは、方法論提供者として大いに学ばなければならないところである。

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著書名
失敗学のすすめ
著者
畑村洋太郎
方法論の対象
ビジネス業務全般(特に技術系業務)
出版社
講談社
代表的な原理
失敗から学ぼう。失敗は成功の母
ガイドの内容
これまで、特に日本では失敗を隠すという傾向があった。それでは折角の失敗が生きてこない。「他山の石」とならない。失敗を公開して反省材料としよう、が基本主張である。世界の3大事故というのは、米国ワシントン州タコマ橋の崩落(1940年)、コメット機の墜落(1952年〜54年)、米国戦時標準船(リバティ船)の大量沈没(1942年〜46年)なのだそうだ。いずれも大変な事故で、徹底的な原因究明がされた。その結果、その後の同様事故は発生しなくなった。その状況の具体的な紹介があり、迫力がある。そして「失敗こそが創造を生む」という主張につながっていく。
(上野注) この本の初版は2000年11月ですが、大ヒットしたので、「失敗を生かす仕事術」(2002年3月、講談社)、「社長のための失敗学」(2002年4月、日本実業出版社)、「失敗学の法則」(2002年5月、文芸春秋社)と同じ著者が次々と出版されました。2002年末には「失敗学会」も結成されました。
畑村先生および一連の図書の貢献は、「失敗」という言葉の語感を、「いやなもの、避けたいもの」から、「好ましいもの」とまではいきませんが、前向きにとらえられるようになってきたということではないでしょうか。日本の思考・行動特性を変えるのに大いに貢献しているものと思われます。

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著書名
バカの壁
著者
養老孟司
方法論の対象
人生全般
出版社
新潮社
代表的な原理
分かる・分からないは自分で作っている「カベ」のせい。人生でぶつかる問題に正解はない。
ガイドの内容
常識や一般の説、マスコミの説をそのまま鵜呑みしないで自分の頭で考えなさい、という点を豊富な事例で説いている。あまりにも話が飛ぶので、結局何を言いたいの?という感もある。本書の冒頭に出てくる以下の事例が、著者が言いたいことの代表なのであろう。
イギリスのBBC放送が制作した、ある夫婦の妊娠から出産までの詳細を追ったドキュメンタリ番組を薬学部の学生に見せた。女子学生の多くの感想は「大変勉強になりました。新しい発見がたくさんありました」というのに対し、男子学生の感想は、そのほとんどが「こんなことは既に保健の授業で知っているようなことばかりだ」ということだったという。その答えの差は「出産」ということに対する姿勢の差であろう、関心がないか知りたくないことには新たな発見がないのだと言われている。
(上野注) この点はまったく同感です。当社のMIND−SA研修でも、中途半端に勉強している人は、何ら目新しいことがない、と評価されます。これまでの知識が明確に整理されていませんから、今度の研修対象もそれとどこが違うか、ユニークかが分からないのでしょう。もう10年近く前に、某総研の常務殿にMIND−SAの問題点連関図をご説明したときに、それはQCの手法と同じだと言われたのです。いや、ここが違いますと説明しても受け入れられないのです。イーブンの立場ではなかったので説得をあきらめました。
また「ビジネス問題に正解はない」は、MIND−SAテキストでもう十数年主張している点です。非常に多くの情報システム関係の方々に「目からウロコ」と評価されています。技術思考ではどうしても「正解」を求めてしまいますから。別項の「失敗学のすすめ」の畑村先生も、技術の世界でも「常識を疑え」と言われています。

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著書名
経営の原点に戻る!
著者
高村俊彦 他
方法論の対象
ビジネス、主としてマネジメント領域
出版社
英治出版
代表的な原理
ビジネスでものごとを進める際は、「はかる」スパイラルを回せ
ガイドの内容
経営革新につながるプロジェクトは以下のサイクルで回すとよい。
慮る
組織長の経営革新始動
測る
課題と機会の現状認識
図る
戦略の方向づけ
諮る
上司・部下の相互コミットメント
計る/捗る
アクションプログラム→実行
量る
評価
謀る
プロジェクトの舵取り

(上野注) いわゆるPDCAを具体化した手順で、それ自体は目新しいものではありませんが、それを分かりやすく「はかる」という言葉でまとめたアイデアがユニークです。はかるという漢字は10以上あるのだそうです。
また、内容は単なる理論・理屈の提示ではなく、大小さまざまな豊富な事例に基づいて解説されていることが特色です。残念なのは、「はかる」の領域が広範に及ぶために、焦点が若干ぼけてしまった感じがすることです。
上野としては、本書出版のきっかけになったと「あとがき」に書かれている「測る」の部分をもっともっと具体化していただきたかったと思うのです。MIND−SAを使用した業務改善プログラムである「MIND−VIP」の成功のポイントが「目的・ねらいの明確化」であることは分かっていますが、目的の方向づけと同時に、いかにそれを「定量化・具体化」するか、が鍵だからです。
ちなみにMIND−SAは、この「はかる」スパイラルでは、慮る、測る、図るで利用されます。

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著書名
クリティカルチェーン
―なぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか?
著者
エリヤフ・ゴールドラット
方法論の対象
プロジェクト運営
出版社
ダイヤモンド社
代表的な原理
プロジェクトが
遅れるのは
右の要因である。
1.もともと、余裕時間が積み増しされている。
2.浮いた時間は無駄に消費される。
3.(ぎりぎりまでやらない)学生症候群
4.掛け持ち作業の弊害
5.依存関係(前の遅れが後ろに影響する)
そこで
こうしなさい。
1.作業ごとに期限設定しないで必要期間だけを与える。
2.余裕は個別に見ないで、全体でとる(特にクリティカルパス上で)。
3.資源の競合は計画段階で解消する(「掛け持ち」もその1つである)。
ガイドの内容
エリヤフ・ゴールドラット博士のTOC(制約理論)のプロジェクト対応版である。TOCは、ボトルネックに焦点を当て、そこを中心にこと(生産等)を進める方法であるから、プロジェクトに適用することが、もっとも適しているのである。それの適用版が本書である。上記の「原理」に記述したことは、ほとんど解説の必要はないのではないかと思われる。目新しいのは、「作業ごとに期限設定しないで必要期間だけを与える」であるが、日本の風土では、「情報公開してモティベーションを図る」という方式との調整が必要になりそうである。
(上野注) エリヤフ・ゴールドラット博士の「ザ・ゴール」(原書1984年刊)「ザ:ゴール2」(同1994年刊)「チェンジ・ザ・ルール」(同2000年刊)に続く小説仕立ての方法論解説書日本語版の第4作目である。小説としては、「ザ・ゴール」についで面白い。プロジェクトマネジメントの世界では、以前からクリティカルパスの概念はあり、TOCの理論となじみやすい面がある。TOCを生産や経営に適用することに関しては大いに新しい着眼を感じたが、プロジェクトへの適用はむしろ当然という感じがする。原書の刊行は1997年であるから、今時点で新規性がないのは割り引いて考える必要があろう。しかし、その本筋ではないところでも、博士の慧眼が発揮されている。たとえば、「学生症候群」だの「掛け持ち作業の弊害(掛け持ちは結果的に効率低下を招く。特に無計画な場合)」である。プロジェクトで苦労した方なら、「なるほど、そうだ」と思われることが多いのではないだろうか。

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